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美幸と稜シリーズ

金魚①

 恋人の美幸と二人、並んで歩く夏祭りの帰り道。美幸が持っている金魚袋には、赤い金魚が一匹。僕が持っている金魚袋には、黒い金魚が一匹。美幸も僕も示し合わせた訳ではないけれど、金魚袋を揺らさぬようにと、行きよりもゆっくりと歩いていた。
「金魚掬い難しかったねぇ」
 二人して早々にポイを破いてしまい、金魚を一匹も掬えなかった。それでもこうして金魚をくれたのだから、良心的なのかも知れない。だけどもだ。
「あれは、ポイの紙が薄すぎるんだよ」
「ふふっ。負けず嫌い。稜君の隣の小学生は、お椀いっぱいに金魚を掬っていたじゃない」
「ぐっ……」
 それを言われては、僕には返す言葉がない。僕が黙り込んでしまっても、美幸は気にする素振りも見せずに言う。
「明日になったら、一緒に金魚の水槽を買いに行こうね!」
「別に、いいけど……」
 明日も美幸に会えるなんて嬉しい。だけども素直に喜べなくて、ぶっきらぼうな答えになってしまう。
「ねぇ、稜君。この金魚だけど、一緒に飼ってあげた方がいいと思うの」
 僕は美幸が、金魚を僕に押しつけたいのだと思った。金魚掬いは美幸がやろうと言い出したことなのにと、少し残念に思う。美幸にとっては、金魚も僕もどうでもいいものなかもしれない。そう思うと悲しかった。それでも僕はニコリと笑う。
「そうだね。僕が二匹とも飼うよ」
「んもー、違うよ! 金魚は二人で一緒に飼おうって、言いたかったの!」
「えっ? それって……!」
 美幸はムスッとした表情をしているけれど、丸いぽっぺたがみるみるうちに赤くなっていく。それを見て、僕の顔も熱くなってくる。
「えっと……、明日は一緒に不動産屋も見に行こうか」
「いいけど!」
 美幸は怒ったように言って、スタスタと早足で歩き出してしまった。後ろ姿でも、耳が赤くなっているのがよくわかる。
「待ってよ、美幸! そんなに早足で歩いたら、金魚が……!」
 はたと気付いた様子で、美幸が歩く速度を落とす。僕は金魚袋を揺らさないように気をつけながら、急いで美幸の隣に並ぶ。
 僕だって、いつかは美幸と一緒に暮らしたいと思っていた。なのに美幸から言わせてしまって、自分を不甲斐なく思う。だけども、美幸が僕と同じ気持ちでいてくれていたことが嬉しかった。
「あのさ。手、繋がない?」 
「……うん」
 美幸が金魚袋を持ち替えて、僕の手を握ってくれる。僕はこの温もりを、生涯手放さないと心に誓った。

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