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運命をたぐり寄せて

「このボトルメールが戻って来たら、あなたの告白を受け入れます」
 そう言って私は、リターンアドレスを書いた紙切れを入れたボトルメールを、橋の上から川に投げ入れた。
 私はこのボトルメーが、決して返っては来ないことを知っている。なぜならコルクの栓に、小さな穴を開けているのだから。小さな穴から少しずつボトルの中に水が入り、やがて水底に沈むだろう。それは今までここから川に流してきたボトルメールたちと同じに……。
 初めてこの場所からボトルメールを流したのは、私がまだ六つの時だった。幼なじみの男に子にしつこく将来結婚しようと言われ、うんざりしてボトルメールが返ってきたならなどという条件を思いついたのだ。結局あれから二年もしないうちに幼なじみの男の子の気持ちは他の女の子に移っていった。もちろんあの時の、ボトルメールは返って来ていない。
 恋なんて所詮は一時の熱病のようなもの。時が過ぎれば正気に戻る。それまでのつなぎにボトルメールはちょうどよかったのだ。
 今までたくさんの気持ちを川に流してきた。そして、私以外の誰かへ気持ちが移って行くのを見てきた。私はいつも取り残される。
 つからだろう、ボトルメールが返って来て欲しいと思うようになったのは。いつからだろう、一人でいることを寂しいと思うようになったのは。
 だけども私は怖がりで、コルク栓に穴を開けることをやめられないでいた。
「きっとボトルメールは返って来るよ」
 はじけるような笑顔であなたは言う。
「いいえ。戻っては来ないわ」
 私は冷たく突き放す。
「ねぇ、ボトルメールは自分で探しに行ってもいいの?」
「それはかまわないけれど……」
 小さなボトルメールは大きな川の流れに飲まれて、もうすっかり見えなくなっている。探し当てられるなんて到底思えなかった。
「じゃ、探してくるね」
「え……?」
 次の瞬間には川の水面に大きな水柱が立っていた。
「嘘でしょ!」
 私はスマートフォンを取り出し、震える指で119をダイヤルした――。

 二時間後。私の通報で駆けつけた警察と消防員にこっぴどく怒られて居るあなたがいた。満面の笑みのあなたの手の中には、小さなボトルメール。
 めちゃくちゃな人。だけど、運命を自分でたぐり寄せる強さを持った人。
 私はきっとあなたを好きになる。そんな予感がした。

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