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君と僕シリーズ

■2023.05.10~2023.05.31

 

書く習慣「忘れられない、いつまでも。」

 夏祭りの夜。君二人でと食べたかき氷の味が、いつまでも忘れられないでいる。
「ねぇ、お祭りのときに食べたかき氷を覚えてる?」
 不意に君から尋ねられて、ドキリとした。
「もちろん覚えているよ。優衣がいちご味で、僕がブルーハワイ味だったよね」
「そうそう。悠真のベロが真っ青になっちゃって、面白かったな!」
「優衣だって、真っ赤になってたじゃないか」
 二人で交換しながら食べたかき氷。君と初めてのデートで、初めて手を繋いだ日だった。きっと十年後も、二十年後も、この先ずっと僕は、君と食べたかき氷の味を忘れないだろう。
「今年も一緒にお祭り行こうね!」
「いいよ」
 君が瞳をキラキラさせて楽しそうに未来の話をするから、僕はとても幸せな気持ちになったのだった。

 


書く習慣「愛を叫ぶ。」

 君を想う気持ちが日々積み重なって、愛を叫びたくなるときがある。だけども僕は、君の前では何でもない顔をして澄ましている。だって君は、僕のことなんかちっとも意識してくれていないから。
 ただの友達。それが今の僕たちの関係だ。切ないけれどもいいんだ、このままで。恋人になったら、いつか別れが来るかも知れない。だけども友達なら、何も始まっていないから、終わることもない。ずっと君の側にいられることが、僕の幸せなんだから。……と、自分に言い聞かせて随分経つ。
 本当は自分でもわかっている。ただ臆病なだけなんだって。君と過ごす穏やかでぬるま湯のような幸福に、すっかりつかってしまった僕は、重大なことを失念していた。
 僕は偶然、君が男の人と腕を組んで歩いているのを見かける。僕に気づいた君が、笑顔で何かを話しかけようとしていたが、僕はその場から逃げ出してしまった。
 走って、走って、走り続けて、疲れ果てて膝を地面につく。ぜぇぜぇと鳴る呼吸音がうるさい。汗がポタポタと、顎先から地面に落ちている。
 僕は自分で思っていたよりも、ずっと狭量な人間だった。友達でなんて、いられるはずがない。僕が勇気を出して想いを告げていたら、君との未来は変わっていただろうか。いや、そんなこはありえない。君が僕を好きになってくれることなんて、ないのだから。
 もう君の側にはいられない、どこか遠いところに行こう。田舎に帰るのもいいかもしれない。そんなことを考えていたときだった。
「ちょ、ちょっと! 急に走り出してなんなの?」
 間違えるはずもない君の声。顔を上げると、汗だくで髪の乱れた君が、僕と同じように息を切らしてそこにいた。
「どうして……」
 僕を追いかけてきてくれたのか。恋人と一緒にいたのではなかったのか。
「せっかく兄貴を紹介しようと思ったのに、走って行っちゃうんだもん……て、あれ? 泣いてるの?」
 言われて始めて、僕は自分が泣いていたことに気づいた。慌てて服の袖で涙を拭う。
「あれあれ~? もしかして、私に彼氏ができたと思って、泣いちゃった?」
「そんなこと……!」
 ないと続けたかったが、図星をつかれてうまく言葉にできない。
「ぼやぼやしてると、本当に誰かの彼女になっちゃうんだから」
「そんなの、だめだよ……!」
 思わず口に出してしまった。
「だったら、私に言うことあるでしょ?」
 君は意地悪げに笑っている。こうなったら、僕も腹をくくるしかない。僕はすぅっと息を吸い込んで、君への愛を力一杯叫んだ。

 このときの僕の一世一代の告白は、やり過ぎだったと怒られたが、告白の返事はOKだった。

 


日替わりお題「観覧車」「群青」「君の体温」

 空の色がオレンジから群青に変わっていく。もう間もなくこの遊園地も閉館時間となり、君と僕のデートも終わりが近い。
 僕の先を歩く君が、振り返りながら言う。
「最後に観覧車乗ろ! 終わっちゃうから、急いで!」
「うん!」
 僕たちは観覧車まで駆けていった。

 急いだおかげで、なんとか観覧車の営業時間内に間に合った。二人して息を切らしながら、やって来たゴンドラに乗り込む。向かい合わせに席につくと、君と目が合って、僕は思わず視線を逸らしてしまった。君が可愛すぎたから直視できなかたのだ。見たいけど、見られない。僕は臆病者だった。
 ゆっくりと上昇していくゴンドラの中で、君とたわいのない話をする。せっかく二人きりなのだから、何か気の利いたことを君に言いたいけれど、何も思いつかなくて、気持ちばかりが焦ってしまう。
 突然君が立ち上がり、ゴンドラが揺れる。
「わっ! 何?」
「いいからいいから」
 君はニコリと笑って、僕の隣に座ってきた。肩に触れる君の体温が温かい。緊張で心拍数が上がり、汗が噴き出る。
「ねぇ、知ってる? ゴンドラが天辺にあるときは、誰にも中を見られないんだよ」
「え? ……んっ!」
 むぎゅっと押しつけられた君の唇。
 唇が触れあっていたのは、ほんの一瞬のことで、君はさっと元いた向かいの席戻ってしまった。
「急にこういうことするの、やめてよ」
「えへへ。だって、観覧車の天辺でキスするの夢だったんだもん」
 無邪気に君が笑っている。
 君とキスができて、ほんとうはすごく嬉しい。でも僕は素直になれなくて、せっかく君と一緒にいるのに、ふてくされたフリをして窓の外のばかりを見ていた。
 唇に君の体温がいつまでも残っていて、君とキスをしたことばかりをぐるぐる考えてしまう。僕は群青に変わってしまった空が、僕の火照ってしまった頬を隠してくれたらいいのになと思った。

 


日替わりお題「白い粉」

 ガシャンと硬質な音がして、ばふんと白い粉が舞い上がる。
「けほっ、けほっ。ちょっと! 気をつけてよ!」
「わわっ、ごめんごめん!」
 僕は小麦粉の入ったボウルをひっくり返し、テーブル周りを白い粉だらけにしてしまった。
「あー、私が片付けるから、いじらないで」
 僕は両手を挙げて降参のポースをとる。これ以上被害を大きくしないためには、僕が手を出さない方がいいというのはよくわかっていた。というのも僕が失敗をしたのは、これが初めてではなかったからだ。今日だけでも何度失敗してしまっただろうか。だけども君は、こんな不甲斐ない僕に怒ることも失望することもなく、根気強く付き合ってくれている。
 テキパキと片付けを終えた君が、笑顔で僕を振り返る。
「続きしよっか!」
「待って。鼻の頭に小麦粉がついてるよ。とってあげるから、動かないでね」
「うん」
 僕はポケットからハンカチを取り出し、粉をとってあげた。
「はい。綺麗になったよ」
「ありがとう」
「ううん。僕こそ片付けありがとう」
 さて、僕たちは料理を再開することのになったのだが、何ができあがるのかは、できてからのお楽しみです!

 


書く習慣「風に身をまかせ」

「風に身をまかせて大空を飛べたら、どんなに素敵かと思うの!」
「え……。き、気球にでも乗る?」
 気球をチャーターして、二人で大空デート。とても素敵だが、一体いくらかかるのか。貯金はあるけれど、足りるだろうか。多分足りないだろうな……。僕がうむむと考え込んでいると、君がカラリと笑う。
「あははっ。違うよ~、タンポポの綿毛になったらどんなかなって」
「タンポポ……、綿毛……」
 君の言動は、ときどき僕の理解を超越する。そんな予測不能なところが素敵なのだけど。
 僕は君の願いならどんなことだって叶えてあげたい。だけれど、さすがに君をタンポポの綿毛にしてあげることはできない。
「右から風が吹けば、右へ。左から風が吹けば、左へ。当てもなくふわふわ、ふわふわ~って、大空を飛んでいくの」
 君は歌うように軽やかに言葉を紡ぐ。
「それって、気球じゃ駄目なの?」
「だめだめ。気球じゃ高度が高すぎるもん。雲の上じゃない」
「そっか……」
 気球だったら今すぐには無理でも、いつかお金が貯まったら乗せてあげられるのに。
 僕にはタンポポの綿毛になりたい君の気持ちがわからない。もしも本当に君がタンポポの綿毛になったら、僕の手の届かないどこか遠くへ行ってしまうのでは……。なんて考えて、一人で落ち込んでしまう。
「私がタンポポの綿毛になったらねぇ。風に身をまかせて、いろんなところに飛んでいくの。でもきっと最後は……」
 そう言って君が、僕の胸にそっと手のひらを置く。急に近くなった二人の距離に、僕はドキリとする。
「ここに戻ってきちゃうと思うの」
「……うん」
 君が帰る場所に僕がなれるのなら、嬉しい。
 胸に置かれた君の手のひらから、君の体温が伝わってくる。顔がどんどん熱くなってしまって、僕はとても困った。

 


書く習慣「後悔」

「もう知らない! 大嫌いっ!」
 売り言葉に買い言葉で、思わず出た言葉。それまで怒った表情をしていた彼が、口を噤んで泣き出しそうな顔をする。それを見て、私は言い過ぎてしまったと思った。
 本当は大好きだし、彼を傷つけるつもりなんてなかった。だけど後悔しても、もう遅い。一度口に出してしまった言葉は、取り消すことができないのだから。
「僕は、君のこと……」
 私はとっさに、彼の口をキスで塞いでしまった。だって嫌いだなんて言われたら、耐えられない。
 彼に両肩を掴まれて、ぐいと引き離される。
「やめてよ」
 明確な拒否に体が固まる。
 私がどんなにわがまま言っても、いつも許してくれた優しい彼。そんな彼から、初めて拒否された。よっぽど彼に嫌われてしまったんだと思ったら、涙がポロポロ溢れてきた。
「うぅ……、ほんとは大好きなの、大好きなのっ! 私のこと嫌いにならないでぇー!」
「ちょっと、どうしたの。落ち着いて……」
「やだやだ! 嫌いになっちゃやだ!」
 不意に彼に上を向かされる。彼が優しくキスをしてくれた。
 ――う、嬉しい……。
「少しは落ち着いた?」
「……うん」
 彼が私の手を握ってくれる。大きくて温かい手。大好き。
「嫌いになんてなってないよ」
「ほんと?」
「ほんとだよ。僕はさっき『僕は好きだけどね』って、言おうとしたんだよ」
「そうだったんだ……」
 なぁんだ。私の早とちりだったのか。よかった。
「きのことたけのこは一個ずつ買って、二人で半分ずつ食べよう?」
「うん、そうする!」
 彼がきのこ派で、私がたけのこ派だった。私たちの初めての喧嘩は本当にくだらないことが原因だった。でも、どさくさに紛れてキスしちゃったし、彼からキスもしてもらえた。
 彼の手をギュッと握り返す。私は嘘でも彼を傷つけるようなことはしないと決めた。だって、もう後悔なんてしたくないから。

 


日替わりお題「キス」「シャワー」「深海」

 頭から冷たいシャワーを浴びて、頭を冷やす。そうでもしないと頭に血が上って、思考が沸騰してしまいそうだった。

 僕は今日、生まれて初めてのキスをした――。

◇◇◇

 君と付き合い始めてもうすぐ三ヶ月になる。今日のデートは、君の提案で水族館へ行くことになった。
 色とりどりの魚たちが、壁や天井にまで泳ぎ回る。館内は照明が最小限に落とされていて、水槽のアクリル越しに差し込む光が、幻想的に揺らいでいた。
 休日と言うこともあり、館内は混み合っていた。人混みではぐれないようにと、君が僕の手を握ってくれて、僕は緊張もしたけれどすごく嬉しかった。楽しくて幸せな時間が、僕には夢みたいに思えていた。
 だけども、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。君を君の家の前まで送り届けたのはいいけれど、別れがたくて僕は握った君の手を離せずにいた。
「深海魚として有名なチョウチンアンコウは、誘引突起と言う擬餌状の突起が頭に付いていて、寄ってきた魚などを食べるんだ」
 話が途切れてしまったら、別れの挨拶をしなくてはならない。だけども僕はそれが嫌で、必死に口を動かし続けていた。
「それでね、チョウチンアンコウの誘引突起には……、ふぁっ?」
 突然君に、唇を人差し指でちょんと押さえられる。僕はびっくりして、口を噤んでしまう。
 君は片頬を膨らませて言う。
「もう、いつまでしゃべっているの。これじゃいつまで経ってもおやすみのキスができないじゃない」
「え……、えっと、それって……!」
 君の口から出た『キス』という言葉が、頭の中でグルグル回る。興奮と緊張で血が瞬時に沸き立ち、体中から汗が吹き出る。君の手を握っている手のひらも汗で濡れていくのがわかった。
「ねぇ。早くしないと、門限過ぎちゃう!」
「わ、わかった……!」
 急かされて訳もわからないまま、君の唇に自分の唇を押しつけた。これが僕のファーストキス。

◇◇◇

 ファーストキスをした次の日。僕は冷たいシャワーの浴びすぎで風邪をひき、君から「何やってんのよ」と、あきれられた。
 
■参考サイト
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%A7%E3%82%A6%E3%83%81%E3%83%B3%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B3%E3%82%A6

 


日替わりお題「流れ星」

「あっ! 流れ星!」
「えっ?」
 君の声で慌てて夜空を見上げたけれど、流れ星はもう見えなかった。君は興奮気味に僕に尋ねてくる。
「ねぇ、ねぇ。さっきの流れ星見えた?」
「ううん。間に合わなかった」
「そっかー、残念。また落ちてこないかなー」
 君は夜空ばかりを見つめていて、歩く足元がおろそかになってしまっている。僕は君が転んでしまうのではないかと、心配になった。
「そんな頻繁には落ちてこないよ。それより前をちゃんと見て」
「だぁってぇ、一緒に流れ星見たんだもん」
「うーん、そうだなぁ。ちょっと待ってて」
 僕はスマートフォンを取り出して、検索をかける。すると君がスマートフォンの画面を覗き込んできた。
「何を調べているの?」
「次の流星群だよ。えっとね……、あった。次の流星群は八月十三日、ペルセウス座流星群だね。この日なら一緒に流れ星が見られると思うよ」
「おおー! 流星群かぁ、いいかも! 一緒に見ようね!」
「うん」
 君はいつの間にか僕からスマートフォンを奪って、ペルセウス座流星群についての記事を読みふけっている。
「どうしてそんなに流れ星が見たいの?」
「それはね~、願い事があるんだ!」
 君が瞳をキラキラと輝かせて、僕を見る。僕は真っ直ぐに見つめられて、胸がドキリとしてしまう。
「でも私一人じゃ駄目で、二人で一緒に願い事しないと叶わないから」
「どうして?」
「んふふ。二人がずっと一緒にいられますようにって、お願いするの。二人で一緒にお願いした方が叶いそうでしょ」
「そ……、それはそうだね。一緒に願い事しよっか!」
「うん!」
 僕は照れてしまって、どんどん顔が熱くなってくる。君はそんな僕にお構いなしで、「楽しみだね!」と、笑っている。
 たとえ流れ星に願い事ができなかったとしても、僕は君とずっと一緒にいるつもりだよとは、まだ言えなかった。でも、いつか君に伝えたい。僕がどれだけ君を想っているのかを――。

 


日替わりお題「踊り場」
 夕暮れ時。忘れ物をして教室に戻ろうと、僕は階段を昇っていた。ちょうど僕が踊り場にさしかかったときに、誰かが階段から駆け下りて来る音が聞こえた。僕はぶつからないようにと、慌てて端に避ける。
 駆け下りて来たのは君だった。君は軽やかに僕の隣をすり抜けて行く。
 その時、何かが小指がに引っかかった。驚いて見ると、君の小指が僕の小指に絡んでいた。
「えっ……?」
 戸惑う僕を見て、君は唇の口角をにぃっと上げた。それは一瞬のこと。小指が解けて、君は立ち止まることなく階段を駆け下りてゆく。
「バイバイ! またね!」
 こちらを振り返りもせずに片手だけ振って、君はそのまま階段を駆け降りて行った。僕は時が止まったかのように、その場から動けなかった。
 君は吹き荒れる春風のように、僕の心もさらっていってしまった。

 


日替わりお題「好きな絵本」

「あっ! 西風号の遭難がある。見てもいい?」
「いいよ」
 君が僕の部屋にいることが、未だに慣れない。君は本棚から西風号の遭難をそっと抜き出す。
「この絵本、教科書に載ってたよね。なつかしいな」
「うん。僕の好きな絵本なんだ」
「私も好きだった」
 絵本を開いた君の手が、ゆっくりとページをなぞっていく。付き合う前は、もっと大雑把な人だと思っていた。だけど実際の君は、何に対しても優しく丁寧だった。絵本を読む所作からも、絵本を丁寧に扱ってくれるのがわかる。僕の好きな絵本を大切にしてくれる君を、僕も大切にしたいと思った。
「ふふ。そんなに見つめて、なぁに? 私に見とれちゃった?」
 君は絵本から視線をあげずに言う。僕は穏やかに微笑んでいる君を見て、綺麗だなと思った。
「うん。素敵な人だなって、見とれてた」
「……ッ! な、なに言ってんのよ……!」
 びっくりした顔で振り返った君の顔が、どんどん赤く染まっていく。それを見て、僕の顔もどんどん熱くなる。うっかり心で思っていたことを、そのまま伝えてしまっていた。
 茹で蛸みたいに顔を真っ赤にした君は、とうとう絵本で顔を隠してしまう。
「私は冗談のつもりで言ったのに……」
「ご、ごめん……」
 ものずごく恥ずかしくて照れる。僕はまだ、君と一緒にいることとに慣れないでいた。

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